2013年01月07日

『料理の四面体』

私も『Cooking for Geeks』という料理の本を翻訳していますが、その出版記念イベントでお会いした方に勧められたのが、この『料理の四面体』です。
その後すぐ買ってはいたのですが、今まで読んでませんでした…。すみません。^^;

年末年始を利用して読んでみたところ、いやまったく、コンセプト的には『Cooking for Geeks』と同じですね。
ただ『Cooking for Geeks』はその名の通り料理を科学的に分析していますが、『料理の四面体』のほうは正統的な料理人の視点から分析している、という点が違いだと思います。
しかし、両方とも料理の背後にあるロジックを解き明かそうとしている点は共通しているので、とても共感できました。とても30年以上前(1980年)に書かれた本とは思えません。
特に「V スープとお粥の関係」は、『Cooking for Geeks』と併せて読むと、一段と理解が深まると思います。
すみません、自分の訳書の宣伝になってしまいました。^^;
あと、スープに関しては辰巳芳子さんの『あなたのために――命を支えるスープ』もお勧めです!
posted by ぽそこし at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 読んだ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月21日

『翻訳語成立事情』

岩波新書の『翻訳語成立事情』という本を読みました。
私の手元にある本は、父親の友人で中世英語の研究者だった、2年前に亡くなった方の書棚からいただいてきたもので、1982年発行の初刷りです。
30年も前の本ですが、現在でも版元在庫があるようで、アマゾンのレビューなどでは高評価が並んでいます。
いわゆる「隠れた名著」に当たるのではないでしょうか。

さて内容ですが、主に明治時代の翻訳者たちが、それまで日本になかった概念を日本語として写し取るために新たな訳語を発明し、あるいは既存の日本語を流用した苦労や、またその際にもともとの日本語の意味と翻訳語としての意味が重ねあわされることによって、元の言葉の意味がどのように変容していったのか、ということが「社会」、「個人」、「近代」、「美」、「恋愛」、「存在」、「自然」、「権利」、「自由」、そして「彼、彼女」という10個の言葉について、膨大な引用文献と共に説明されています。
私も翻訳者の端くれとして、外国語をどのように日本語と対応付けるかということには毎日のように思い悩んでいますので、非常に共感を持って読めました。

特に私が興味をひかれたのが8章の「権利」です。
これは英語で言えば「right」なのですが、一言でいえば「正しさ」という意味です。
一方日本語では、その訳語のひとつとして「権利」という言葉が当てられています。
「ところが、『権』ということばは、正しさとはむしろ正反対に対立する意味、力というような意味であった。」さらに「…rightは、西欧思想史上、むしろ力とは、厳しく対立する意味のことばであった。」と筆者は説きます。
つまり「権利」という日本語は一種の誤訳であり、それ自体に論理矛盾が含まれているというのです。

そしてその矛盾は、現在も引き継がれている、と私は思います。
例えば「権利を振りかざす」というような言い方があります。
これには権利の使用を自制すべきだという含みがありますが、本来の「権利」は人間に正当に与えられているものであるはずです。
ここに、「権利」という言葉を本来の意味ではなく、力という意味で捉えている影響が感じられないでしょうか。
あるいは、最近の日本によく見られる、基本的人権を無視した弱者切り捨ての論理にもつながってはいないでしょうか。
この本を読むと、いろいろとそういったことを考えさせてくれるのです。

そのような意味で、この本は30年後の今になっても価値を失っていません。
翻訳に携わる方々はもちろん、日本語に興味のある人にはぜひ読んでいただきたいと思います。
posted by ぽそこし at 21:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 読んだ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする